kindle版「恐怖の映画史」発行に寄せて

Kindle版「恐怖の映画史」発刊に寄せて

これまで雑誌やパンフレット、DVDやブルーレイなどのソフトに封入されているライナーノートなど、映画を巡る文章を執筆してきましたが、個人的にいちばん思い入れのあるのが、黒沢清監督との共著『黒沢清の恐怖の映画史』(青土社 2003年刊行)です。これはもうこれまで自分が監督した映画と同じように大切な本です。隅々まで凝った装丁で、嬉しくて、嬉しくて、何度もページを捲りました。貴重な映画のスチル写真も含まれていて、今だと権利問題で写真1枚載せるにもお金がかかってしまい、場合によっては許可が下りないかも知れません。元々この書物の出発点は、2001年に黒沢さんがテレビ向けに監督した『降霊』が16ミリフィルムで撮影していたため、映画館で上映しようと、boid.の樋口泰人さんが決められたことがきっかけで生まれました。

上映館は、いまはなき、吉祥寺バウスシアター。そこで、同時に黒沢さんがセレクションした恐怖映画の特集が組まれ、せっかくなのでパンフレットを作る代わりに、黒沢さんと私が対談したものを文字お越しして、プリントアウトしたものを劇場で販売したところ、想像以上に反響があり、そこで更なる対談を行って加筆したものをCD-ROMにして販売したのです。スチル写真もなく、ひたすら活字を読むだけでしたが、これまた売れ行きもよかったようで、書籍化の話が立ち上がったのです。

書籍化に際して、またまた更なる追加対談を行い、加筆訂正をしたのが『黒沢清の恐怖の映画史』でした。実は、CD-ROM版でしか取りあげていない映画、逆に書籍版でしか取り上げていない映画もあります。CD-ROMの方がしゃべりのノリを生かしているということはあるかも知れません。そして時は流れ…最初の対談から20年経った今年、CD-ROM版をKindle版で出し直そうということになりました。そこで、CD-ROM版そのままではなく、今回あらためて加筆することになりました。

2001年~2021年にかけて、この20年で一番大きな変化は、ビデオからDVD、さらにはブルーレイなど、映画ソフトの値段が廉価で出るようになり(16ミリや8ミリフィルムは数万円~数十万円。ビデオも後に廉価版が出ましたが、最初は1本1万数千円~2万円。レンタルも1回1200円!もしたのです)、それまでは、ごくごく一部のかなりマニアックな映画ファンしか映画そのものをコレクションすることはなかったのですが、一般家庭にも、映画ソフトが入り始めたことでしょう。そのおかげで、逆説的なかなりマニアックな映画もソフト化されるようになったのです。対談当時に黒沢さんから話を聞き、「見たい!見たいです!」と連呼していた映画のほとんどが、国内外でソフト化されて見ることが出来るようになったのです。

ただ、今回加筆するにあたっては、対談のあと、この20年間で新たに見た映画の感想は、加筆しないでおこうということになりました。一人語りならともかく、対談なので、もしも、それをするのであれば、新たに対談を行わなくてはなりません。それをし始めると、大変なことになるのは目に見えています。そこで、「歴史」は改変しないことにしましたw

対談時に見れなかった映画は、あとで見ていても触れないでおき、ちょっとした記憶違いではなく、情報として明らかに間違った部分は修正し、CD-ROM版は、話し言葉を生かしていたので、どうしてもわかりにくいところや繰り返し部分を整理するに留めました。

そうして出来上がったのがKindle版『恐怖の映画史』です。一度プリントアウトしたら信じがたい分量でしたが、読み始めると面白くて(私の発言はともかく、黒沢さんの示唆に富んだ発言の数々)、一気に読みました。ただし、進行中の老眼ゆえに(笑)ゲラ直しは、なかなか作業は大変ではありましたが。

いつの日か、『恐怖の映画史PART2』が出せるように、ぜひ皆様、読んでください。ホラー映画はどうも苦手だという方もぜひ。もったいないですよ。怖くても面白い映画はたくさんありますから。