製作        コムテッグ

製作協力      オフィス北野

STAFF

製作・脚本・監督  篠崎誠
共同脚本・助監督  酒井善三
プロデューサー   市山尚三
音楽        長嶌寛幸
撮影監督      秋山由樹
録音        百々保之
編集        和泉陽光
製作管理      大工原正樹
助監督・美術    宮崎圭祐
ヘアメイク     大河内ともみ・丸山英里
衣装・メイキング  中島美紀
キャスティング協力 東平七奈
美術協力      櫻井沙由里
スチール      新谷尚之
録音助手      平井正吾
録音応援      大野裕之・ 國方啓祐
撮影助手      三重野広帆
舞台照明      松尾元
特技監督・視覚効果 田口清隆
躁演・特殊効果   辻川明宏・岩田安司
特殊美術      久保田雅之
特撮制作      今西健太
制作応援      三島祐
特美助手      杉浦圭郎
制作スタッフ    壺井濯・一光眞由香・蓮沼航・古橋麻里奈
制作・音響効果   岩崎晶子・天野小夜子

 

CAST

川島瑛子      山田キヌヲ
水谷薫       桶井明日香
清志        河村竜也
河本大輔      木村知貴
彷徨う男      高橋隆大

明         小林優斗
樹         木口健太
真吾        鈴木一希

取材を受ける女        清水葉月
女子高生        柗下仁美
女子高生        矢崎初音
心理学科助手      井出正和
図書館員        中寿寿乃
図書館員        野中嘉乃
屋上の女        吉岡紗良
ビデオの中の少年    高橋流晟
電車の中の少女     新津ちせ
少女の叔母       三坂知絵子
少女時代の瑛子(声)    永松月音
瑛子の姉(声)      篠崎 文

児童カウンセラー阿部  鈴木卓彌

演劇学科 白鳥教授   兵藤公美

STORY

社会心理学者の瑛子は2011年3月11日より前に震災の予知夢を見たという人にインタビューしている。
遠雷が轟く夕暮れ、瑛子は勤務先である大学の廊下で恋人・清志の姿を見かけた。追いかけても追いつかない、その影は外へと出ていき、
突風の中で彼の姿は消えていた…。それは瑛子の見た夢。
瑛子は学生を前に講義をしている。内容は彼女が専門に取り掛かっている“虚偽記憶”だ。受講生の中に水谷薫の姿もある。
薫は演劇学科の学生で、卒業公演の稽古明け暮れている。その芝居の内容は「震災の話を演劇にしようとしている学生たちが対立する」と  いう、等身大の自分たちを反映していた。思うように稽古が進まず、不安に駆られた薫は稽古の終わりに担当指導の白鳥教授を呼び止め、相談する。題材が題材だけに、演じる登場人物の感情に引っ張られないよう、薫にアドバイスする白鳥。

そんな薫を、向かいの校舎から何者かが見ている。薫と同じく瑛子の講義を受講していた男子学生だ。男の視線に気づく薫。男は慌ててその場を立ち去る。バッグを抱えるようにして、大学の中をさまよう男。

夜、瑛子は河本大輔と居酒屋に居た。瑛子の津波で亡くなった恋人・清志も生前は同じ大学で働く認知心理学の助教であり、大輔は共通の友人でもある。大輔は瑛子が清志の死を乗り越えられたのかを気にかけていた。しかし、当の瑛子はそんな大輔の心配をよそに、リサーチによって、自分が考えた以上に311の予知夢を見た人たちがいることについて熱弁をふるう。
「なぜ心理学を勉強しようと思ったの?」と尋ねる瑛子に、大輔は「人の役に立ちたかったからかな」と答える。それは亡くなった清志の答えと一緒だった。

薫は追いつめられるように芝居の稽古をしている。

瑛子は清志のいた心理相談室で1枚のDVDをみつけた。それには幼い男の子の話を聞く清志が映っていた。瑛子はその男の子の話す内容に釘付けになる。
男の子は津波の夢を見ると話しているのだ。日付はもちろん震災の前。瑛子はとっさにその男の子と連絡は取れるのか阿部室長に尋ねるが断られる。

悪夢から目を覚ました彼女は、電話口で阿部からDVDの中の男の子がその後被災して亡くなったことを聞かされる。

薫たちの稽古には暗雲が立ち込めていた。学生たちが現実でも自分たちの芝居の内容について対立し、空中分解してしまう。しかし、そんな中でも薫は
「どうだっていい、私一人でもやる」と熱に浮かされたように呟くだけ。仲間の樹も明もその場から去り、ついに彼女は倒れてしまう。保健室で薫は照明係の真吾に打ち明ける。“夢”逃れられないということ。そしてそれは単なる“夢”ではないということを…薫と激突し、卒業公演から降りた樹は、反原発の集会にいくものの、デモ行進する人々からひとり離れていく。

瑛子の最終講義のあと、薫は瑛子に自分の体験を話す。自分は震災で亡くなったと思われる人の記憶が夢を媒介にして転移しているということだ。津波に呑まれた赤ん坊の掌の蝶の形をした痣まで覚えているという。薫はそれが虚偽記憶ではないと説明できないことに苛立ち、それを瑛子にぶつけて去ってしまう。

瑛子は疲れきっていた。自室のソファに寝転ぶと、そこに死んだはずの清志が帰ってくる。いや、“まだ”死んでいない、今日は2011年3月10日なのだ。
これが夢なのか幻なのか、瑛子にはどちらでもよかった。清志がいさえすれば…。涙ながらに説得する瑛子に、清志は戸惑いながら約束する。「東北に行くのをやめる。これから一緒に薫の卒業公演を見に行こう」

卒業公演の客席で清志は瑛子に伝える。「やはり行かなければならない」と。過去を変えることはできないのだ。出ていく清志の幻を瑛子は必死に追って行く。夢でみたあの光景と同じ。外の出た清志を追いかけたそのとき、チャイムが鳴り、生徒が外に溢れてくる。人ごみをかき分けながら出た先には、清志はもういなかった。

目を開ける瑛子。そこは卒業公演の客席だ。清志がいた席には大輔が座ろうとしている。やはり今のもまた夢だったのか…。そして開演を知らせるブザーが鳴った。

薫は舞台の上で一人芝居をしている。その内容はまさに彼女の体験した記憶そのもの。その記憶の最後の言葉を口にしようとした時、観客席の瑛子も不思議とその言葉を口ずさんでいた。「きっといつか会える」と。

舞台は終わり、薫はロビーで知人から感想を聞いている。その表情は晴れやかだ。瑛子はそんな彼女の表情をみつめていた。薫はその視線に気づく。言葉ではなく、二人はただ視線を交わすだけで十分だった。

帰り道、瑛子は大輔に伝える。清志が最期に見た風景を見てくるつもりだ、と。
芝居がはねた翌日、電車の中でぐっすり眠る薫を起こす小さな手。まだ3歳くらいの少女が、いきなり薫に抱きついてくる。そのことを詫びる同伴者の女性。しかし、その女性は薫の顔を見るなり、動揺して席を立つ。ホームに降りて、少女を抱えたまま、薫を振り返る女性。薫に向って手を振る少女の掌には、まるで蝶のような痣が…。駆け寄る薫の目前でドアが閉まる。遠ざかっていく少女。薫は夢に出てきた赤ん坊が生きていたと確信する。